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2026.05.29(金)

税制適格ストックオプションと有償SO

税制適格ストックオプションが使いやすくなった
令和5・6年度改正のポイントと有償SOとの使い分けを解説

スタートアップの人材採用・役員報酬において欠かせないストックオプション(SO)。かつては税制適格SOの要件が厳しく、有償SOが多用されていました。しかし令和5年・6年度の税制改正により、税制適格SOの使い勝手が大幅に向上しています。本記事では改正のポイントを整理し、有償SOとの使い分け、そして設計時に必ず押さえるべき注意点を公認会計士・税理士が解説します。

① スタートアップにとってSOが重要な理由

スタートアップは成長段階において、現金報酬だけで優秀な人材を確保することが難しい局面が多くあります。そこで活用されるのがストックオプション(新株予約権)です。将来の株式上昇メリットを付与対象者と共有することで、キャッシュアウトを抑えながら採用競争力を高められます。

ただし、SOの税務設計を誤ると、行使益が「給与所得」として最大55%課税される可能性があります。どの種類のSOを選ぶかは、創業者・役員・従業員にとって将来の手取りに直結する重要な判断です。

② 改正前はなぜ有償SOが多用されていたのか

税制適格SO(租税特別措置法29条の2)は、要件を満たせば行使益が「譲渡所得(20%課税)」として扱われる有利な制度です。しかし改正前は以下の3つの壁があり、実務上の使い勝手が悪い状況でした。

改正前の税制適格SOの3つの壁
  • 年間行使価額の上限が1,200万円:株価が上昇したスタートアップでは、行使できる上限がすぐ頭打ちになる
  • 付与対象者が社内者(取締役・従業員等)に限定:社外の顧問・弁護士・会計士・投資家への付与は対象外
  • 口座管理機関(証券会社等)への預託が必要:手続きが煩雑で、M&A時に機動的な行使・売却がしにくい

これらの制約を受け、実務では「有償ストックオプション(有償SO)」が広く使われてきました。有償SOは付与対象者がオプション料を支払って取得するため、適切に設計すれば行使益を譲渡所得(20%)として扱うことができ、税制適格SOの要件制限に縛られません。

③ 令和5・6年度税制改正で変わった3つのポイント

令和5年度(2023年)・令和6年度(2024年)の2段階の税制改正により、税制適格SOは大幅に使いやすくなりました。主要な変更点は以下の3点です。

POINT 01
年間行使価額の上限引き上げ(令和6年度改正)
改正前:年間1,200万円まで
設立5年未満:年間2,400万円
設立5〜20年未満(非上場等):年間3,600万円
POINT 02
口座管理機関への預託要件の廃止(令和6年度改正)
改正前:証券会社等への株式保管委託が必要
発行会社自身による株式管理も可能に。M&A時の機動的な対応が容易になった
POINT 03
権利行使期間の延長(令和5年度改正)
改正前:付与後2年〜10年以内に行使
設立5年未満の非上場会社:付与後15年以内に延長。長期保有型の設計が可能に

これらの改正により、かつて有償SOに流れていたケースの多くで、税制適格SOが現実的な選択肢になっています。なお、令和6年度改正の施行日は2024年4月1日であり、それ以前に締結された既存の契約についても、経過措置として一定の手続きにより改正後の要件を適用できる場合があります。

④ 税制適格SO vs 有償SO 比較表

比較項目 税制適格SO 有償SO
行使益の税区分譲渡所得(約20%)譲渡所得(約20%)
※適切な設計の場合
付与コスト無償(0円)有償(オプション料の支払いが必要)
年間行使価額の上限最大3,600万円
(設立・上場状況による)
上限なし
付与対象者役員・従業員・社外高度人材等制限なし(大口株主も含む)
大口株主(1/3超)への付与❌ 不可✅ 可能
行使価格の設定付与時の時価以上が必要付与時の時価以上が必要
設計の柔軟性要件あり(法定要件を満たす必要)高い(設計の自由度が大きい)
手続きの煩雑さ改正後は大幅に軽減やや複雑(適正な価格算定・設計が必要)

※税務上の取り扱いは個別事情により異なります。実際の設計・判断は税理士・弁護士にご相談ください。

⑤ 有償SOと税制適格SOの使い分けのヒント

税制適格SOは、権利行使時に非課税、売却時に譲渡所得課税という、取得者に税制上のメリットがあります。従業員向けの税制適格SOには業績条件を設けないことで、従業員のエンゲージメント向上に直結しやすいメリットがあります。

一方で、取締役への付与には株主総会での報酬としての承認決議を経る必要があります。そのため、会社業績の状況に応じてタイムリーに取締役へインセンティブを付与したいケースでは、有償SOが選ばれることが多いです。
また、有償SOでは、例えば営業利益に業績条件を課す設計がよく見られます。最近の発行事例では、ゼロサムの設計ではなく、一定割合を達成した場合に、付与されたうちの一定割合が行使可能となる仕組みも増えています。

使い分けの目安
  • 取締役へのタイムリーな付与:株主総会決議が不要な有償SOが機動的
  • 業績連動インセンティブを設けたい:設計の自由度が高い有償SOが適している
  • 従業員のエンゲージメント向上:業績条件なしで付与できる税制適格SOが直結しやすい

⑥ それでも有償SOが有効なケース

改正後も、有償SOが唯一の選択肢となるケースが存在します。代表例が、発行済株式の1/3超を保有する創業メンバーです。

税制適格SOには「大口株主(発行済株式の1/3超保有者)には付与できない」という要件があります。スタートアップの創業初期には、創業者や共同創業者がこの基準を超える株式を保有していることが多く、税制適格SOの対象から外れてしまいます。こうしたケースでは、有償SOが事実上唯一の20%課税スキームとなります。

また、年間行使価額が上限(最大3,600万円)を大幅に超える規模での付与を予定しているケースや、設計の自由度が高いスキームが求められる場合にも、有償SOは引き続き有効です。

⑦ 共通の落とし穴:株価算定の文書化

税制適格SO・有償SOを問わず、すべてのストックオプションに共通する重要な注意点が「行使価格の算定根拠の文書化」です。

⚠️ 株価算定を曖昧にすると起こりうるリスク

行使価格は「付与時の公正な時価以上」で設定する必要があります。上場企業であれば市場価格が基準となりますが、非上場のスタートアップでは時価の算定に客観的な根拠が必要です。算定根拠が曖昧なまま行使価格を低く設定してしまうと、次の2つのリスクがあります。

  • 税務調査のリスク:税務当局が「行使価格が時価より低い=実質的な給与の供与」と判断した場合、行使益の全部または一部が給与所得(最高税率55%)として課税されるリスクがある
  • IPO審査のリスク:上場準備段階で、主幹事証券会社や証券取引所からSO発行時の株価算定の合理性について説明を求められる。算定根拠が残っていない場合、上場審査に影響する可能性がある

一般的な非上場株式の評価方法には、DCF法(割引キャッシュフロー法)、類似上場会社比較法、純資産価額法などがあります。どの手法を選ぶか、また複数の手法をどのように組み合わせるかは、会社のステージや事業特性によって異なります。ストックオプションの設計・付与は、株価算定を含めて専門家と連携しながら進めることが重要です。

⑧ まとめ

令和5・6年度の税制改正により、税制適格ストックオプションは「要件が厳しくて使いにくい」から「スタートアップの主力スキーム」へと大きく変わりました。改正のポイントを改めて整理すると:

  • 年間行使価額の上限が最大3,600万円に拡大(令和6年度改正)
  • 口座管理機関への預託が不要になり、手続きが大幅に簡素化(令和6年度改正)
  • 一定のスタートアップは権利行使期間が15年に延長(令和5年度改正)
  • 発行済株式の1/3超を保有する創業メンバーには有償SOが有効
  • 種類を問わず、株価算定の根拠文書化は必須

ストックオプションの種類選定・行使価格の設定・契約書の作成・税務処理は、設計段階から専門家と進めることで、将来のリスクを大幅に抑えることができます。

この記事を書いた人
神宮 明彦(Akihiko Jingu)
税理士 / 神宮前あおば税理士法人 代表パートナー
freee 5つ星認定アドバイザー MF クラウド ゴールドメンバー EY税理士法人 出身 上場企業 社外取締役

EY税理士法人でグローバル企業・大手上場企業の税務実務を経験後、2018年に神宮前あおば税理士法人を設立。freee 5つ星認定アドバイザー・マネーフォワード クラウドゴールドメンバーとして、スタートアップ・外資系企業を中心に150社以上のクラウド会計導入・税務支援を担当。ベンチャー企業の創業期から上場準備フェーズまで、税務・会計・資金調達を一貫してサポート。

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